対面を伴わないオンライン診療については、医師法第20条による定義限られた原則禁止のルールに対して、時代のニーズに応えるべく、安全性の高い合理的な遠隔診療のあり方を巡り、議論が繰り返されている。

なお、法令では詳細な定義がないため、厚労省による事務連絡や通知をもって解釈として現場の運用ルールを策定しているのが我が国の慣例である。

2020年4月10日の時限的措置として初診からオンライン診療が可能となった。厚労省事務連絡「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の 時限的・特例的な取扱いについて」

https://www.mhlw.go.jp/content/000621247.pdf

▶オンライン診療に関するガイドライン(2018年3月)

▶民間企業の取組事例

まずは時系列に医師法から各通知を振り返る。

原則▼1948 医師法 無診察診療の禁止 (第20条)

医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。

原則▼1997年 情報通信機器を用いた診療 (厚生省健康政策局長通知)

情報通信機器を用いた診療について、無診察治療等を禁じている医師法(昭和 23 年法律第 201 号)第 20 条との関係について解釈を示す。
・初診患者は原則対面
・遠隔診療患者の対象を例示 <離島、へき地、別表の患者 (在宅糖尿病患者等)>

遠隔診療は、あくまで直接の対面診療の補完であるが、直接の対面診療に代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合、遠隔診療は直ちに医師法第20条等に抵触しない。
初診及び急性期の疾患に対しては、原則として直接の対面診療によること。
○ 直接の対面診療を行うことができる場合等には、これによること。
○ 上記にかかわらず、次に掲げる場合において、患者側の要請に基づき、患者側の利点を十分に勘案した上で、直接の対面診療と適切に組み合わせて行われるときは、遠隔診療によっても差し支えないこと。

①直接の対面診療を行うことが困難である場合(例えば、離島、へき地の患者の場合など、遠隔診療によらなければ当面必要な診療を行うことが困難な場合)

▽2003年追加 ②病状が安定している患者に対し、患者の病状急変時等の連絡・対応体制を確保し、患者の療養環境の向上が認められる遠隔診療を実施する場合。例としては別表の患者。
(別表の患者)在宅酸素療法を行っている患者、在宅難病患者、在宅糖尿病 患者、在宅喘息患者、在宅高血圧患者、在宅アトピー性皮膚炎患者、褥瘡の ある在宅療養患者、在宅脳血管障害療養患者、在宅がん患者 ※2011 一部改正

解釈▼2015年 情報通信機器を用いた診療の明確化 (厚生労働省事務連絡)

遠隔診療の対象は1997年の通知に示した患者に限定されず、通知は例示の旨を明確化
○ 1997年の通知に示した「離島、へき地の患者の場合」および病状の安定している患者の「別表の患者の場合」は例示
○ 遠隔医療は、直接の対面診療を行った上で行わなければならないものではない

原則▼2016年 東京都福祉保健課局医療政策部医療人材課長による照会 (厚生労働省医政局医事課長通知)

○ 「電子メール、SNS等の文字及び写真のみによって得られる情報により診察を 行うもので、直接の対面診療に代替し得る程度の患者の心身の状況に関する 有益な情報を得られないと考えられる場合」また「対面診療を行わず遠隔診療だけで診療を完結させるものである場合」は医師法違反になりうる。

解釈▼2017年「規制改革実施計画」の閣議決定 (厚生労働省医政局長通知)

・患者側の理由で診療が中断した場合、直ちに医師法違反にはならない
・禁煙外来の柔軟な取り扱い ・テレビ電話や電子メール、SNS等を組み合わせた診療が可能

■規制改革実施計画の閣議決定
○遠隔診療について、例えばオンライン診察を組み合わせた糖尿病等の生活習慣病 患者への効果的な指導・ 管理や、血圧・血糖等の遠隔モニタリングを活用した早期の重症化予防等、対面診療と遠隔診療を適切に組 み合わせることにより効果的・効率的な医療の提供に資するものについては、次期診療報酬改定で評価を行う。 更に有効性・安全性等に関する知見を集積し、2020年度以降の改定でも反映させていく。

■2017 厚生労働省医政局長による通知
○ 保険者が実施する禁煙外来については、定期的な健康診断・健康診査が行われていることを 確認し、患者側の要請に基づき、患者側の利益と不利益を十分に勘案した上で、医師の判 断により、直接の対面診療については柔軟に取り扱っても直ちに医師法第20条等に抵触する ものではないこと。

○ 患者側の理由により診療が中断し、結果として遠隔診療のみで診療が実施された場合には、直接の対面診療が行われなくとも直ちに医師法第20条等に抵触するものではないこと。

○ 当事者が医師及び患者本人であることが確認できる限り、テレビ電話やソーシャルネットワーキングサービス等の情報通信機器を組み合わせた遠隔診療についても、直接の対面診療に代替 し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合、遠隔診療は直ちに医師法第20条等に抵触しないこと。

○安全性・必要性・有効性の担保のない遠隔診療は、遠隔診療の信頼性を損ないその推進を妨げる恐れがある

原則▼2018年3月 オンライン診療の適切な実施に関する指針(厚生労働省)
医療上の安全性・必要性・有効性が担保された適切な診療を普及するための一定のルール整備のため、オンライン診療の適切な実施に関するガイドラインが発表された。
https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/000618234.pdf

■オンライン診療が定義する範囲

■内容の抜粋

【前提】
○患者合意の下、オンライン診療を診療計画に盛り込むこと(医師の都合だけでは不可
○触診等が出来ず情報が限定されるため、対面診療と組み合わせる必要性と都度その判断をする旨の事前通知
○患者・医師双方の合意を前提とすること
○オンライン診療が適切でない場合は速やかに適切な対面診療に繋げること
○セキュリティ・個人情報保護に関する配慮(映像や音声の録画は事前に必要性を説明・同意を得る)
○患者の本人確認、医師の免許確認など双方が確認できる準備(保険証・マイナンバーカード、医師資格証など)

【診療のルール】
初診・急病急変患者は引き続き、対面診療を原則(患者情報収集や信頼関係などを理由)
すぐに適切な医療を受けられない、かつ、医師が必要性・有効性・リスクを踏まえて判断した場合は初診であってもオンライン診療は可とする(のちに原則、対面診療を実施すること)
○在宅医療支援診療所が医師チーム内での診療計画を明示、いずれかの医師が対面診療を行っている場合も例外とする
○禁煙外来など治療リスクの極めて低いものはオンライン診療のみも許容する
○対面診療が必要となることを想定の上、近隣医療機関との連携体制の整備
○オンライン処方を可能とするが、新たな疾患の場合は対面診療を原則とする。
○重篤な副作用リスクがある医薬品は慎重投与+服薬後のリスク管理に最大限務める
○現在の服薬確認

【診察の方法】
リアルタイムのオンラインであること
○1対1を原則とすること(複数患者を一度に対象としたものは不可、他の医療従事者同席は患者同意を得る)
○騒音やネットワーク環境が不安定などで、動画が途切れる、音声が聞き取れない等の弊害がある場所での実施は禁止
○患者の居場所は自宅や施設、職場等も療養生活を営むことができる場所として認められるが、清潔かつ安全、かつプライバシーが保たれる場所であること

<適切な事例>
○生活習慣病等の慢性疾患について、定期的な対面診療の一部をオンライン化、もしくは追加でオンライン診療を入れる

<不適切な事例>
△初診で処方を行う診療内容とWebサイトで謳っている例
△患者希望による睡眠薬・向精神薬、体重減少目的の利尿薬・糖尿病治療薬、美容目的の保湿クリーム、勃起不全治療薬等の医薬品など
患者情報が得られないまま、不適正使用や転売目的が疑われる処方を実施すること

▼2019年1月~現在 指針の見直し

適切なオンライン診療の普及のため、定期的な見直しを図るため、医政局により「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」が2019年1月より実施されており、2020年4月2日に第9回目を迎えている。https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei_513005_00001.html

新型コロナに対応する内容
https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/000618420.pdf